抗 議 声 明

  法務省入国管理局職員が、トルコ国籍クルド人について、難民認定申請者の個別情報をトルコ共和国治安機関に漏洩し、同治安機関と協力して調査をしたこと、 同職員らがトルコ共和国警察官ないし軍人とともにトルコ国籍クルド人難民申請者の家族らを訪れるなどした暴挙について、抗議する。
  難民認定に関係する公務員が、難民認定申請者の出身国政府と協力関係を結ぶこと、難民認定手続の内容に関する情報を、 出身国政府を含む第三者に伝えないことを要求する。

第1
1 法務省入国管理局局付井上一朗および総務課難民認定室認定係長加藤輝昭は、2004年6月末から7月上旬にかけて、トルコ共和国において、 日本で難民認定申請をしたトルコ国籍クルド人に関する調査として活動を行った。

2 法務省が裁判所に提出した資料によれば、少なくとも9名の難民認定申請者名をトルコ治安当局に示した。 またそれ以外にも少なくとも5名の調査対象者の家族を訪れ、その際、警察官ないし軍令官及び兵士を伴い、またクルド人らに対しては訪問目的、 素性について、明言していない。そして、調査対象者の来日目的などを質問している。

3 なお、現地の家族からの申立によれば、訪問に際して、令状なく、また居住者の許可なく、軍司令官及び兵士と共に居宅に侵入し、 目的の説明も許可もなく居宅や家族の写真を撮影したと疑われる事例がある。

第2 問題点
1 難民認定機関の追うべき守秘義務の違反
  難民認定に関し、当該申請者が出身国当局によって特定された場合には、 申請者やその家族などに危害が加えられるなどのことを危惧せざるを得ないような状況に置かれる。 それゆえ、UNHCRは「申請者とその家族の安全確保と、申請者が提供した情報を保護するため、 UNHCRは個別案件に関するいかなる情報も 出身国に伝えてはならない。」と述べる。今回法務省職員は、この秘密保持義務に明らかに違反している。

2 条約違反
  難民の保護を求める難民条約の精神はもとより、自由権規約第7条、拷問等禁止条約第4条からは、出身国が拷問、残虐な、 非人道的なもしくは品位を傷つける取り扱いをすることに荷担してはならないのにも関わらず、法務省職員が秘密を漏洩し、 また難民申請者の家族にトルコ治安当局者の注意を向ける今回の行為は、申請者とその家族に対するこのような取り扱いに荷担しているといえる。

3 もし第1の3の事実が確認された場合、直接に人権侵害を共同したことにもなる。

4 難民認定機関が迫害者と協力関係にあることの意味
  トルコ共和国の警察、軍の憲兵等は、クルド人に対する人権侵害を行ってきた。クルド人難民申請者の多くは、これら機関による迫害からの庇護を求める者である。
  しかるに、今回、難民認定室所属の職員を含む法務省職員が、難民申請者の調査についてトルコ政府からの便宜を受け、トルコの軍・警察と協力を行っている。 トルコ治安当局者と協力関係にある日本の法務省が、トルコ国籍クルド人の難民申請を、公正に調査・審査することは、期待できない。 それどころか、法務省は、トルコ政府に申請者の一部の素性を明らかにし、申請者の家族まで危険にさらしたのである。
  庇護の期待についてクルド人が感じた絶望は、はかりしれない。この事態は難民認定制度の自殺に等しい。
  当弁護団は、法務省に強く抗議をすると共に、再発防止のため、今後難民申請者の秘密を守り、 難民認定に携わる公務員はトルコ共和国当局と協力関係に身を置くことがないよう要求する。

2004年8月4日
クルド難民弁護団 団長 弁護士 伊藤 和夫

(連絡先事務局 03-5951-6077弁護士大橋 毅)